古代酒とは・・・


1.712年発刊のグルメ本「和漢三才図会」に仕込み方法が載っています。
まず現代の清酒造りと決定的に違うのは汲み水歩合です。お酒を仕込む際には通常では米1に対し水1,4ほどの割合で仕込み水を使いますが、このお酒は0.5、つまり3分の1の水しか入れません。
 通常の酒のもろみに比べ粘度が高い中で酵母が増殖をする環境になり自然、発酵完了までのもろみ期間は通常の酒の約倍かかります。その為麹も長期にわたって酵素を供給出来るような力価の高いものを用いることになり、通常48時間掛けて造る麹を72時間掛けて造ります。
 使う酒米も当時は現代のように精米機など無い時代でしたからほぼ玄米に近いものを使用していました。
以上のような環境で酒を造るとどうなるか・・・、甘さの尺度で言えば現代の一般的な清酒と比較して約80倍甘い値(日本酒度)、有機酸含有量約3倍、という非常に濃く、甘い酒が出来ます。
 実は濃く、甘くというのは微生物学的に見てもお酒を損なうことが有りません。何しろ現代のようなステンレスの仕込みタンク、良い消毒剤、ましてや温度計など皆無の時代の酒造りです。お酒の腐造は何より恐ろしい事で(貴重なお米を潰してしまいますので。)した。現代のように酵母を安全に増殖させてやるテクニックのひとつ「段仕込み」はすでに有った様子ですが、それに加え高濃度の環境で酒を造るということは火落ち菌、腐造性乳酸菌などが顔を背ける環境を創り出したもろみ状態でした。なんと巧みな先人の知恵でしょうか。

  現代のお酒との比較(当社比)

現代清酒(一般的な) 古代酒
精米歩合 50lから70l 90l
汲水歩合 140l 50l
製麹時間 48時間 72時間
もろみ日数 20日 50日
粕歩合 25lから30l 50l以上
仕込み規模 1200kg 300kg
絞り日数 2日 4日
日本酒度 +5 −80
酸度 1.5 4.0


 さて、「和漢三才図会」によると出来上がったお酒は「血のように濃い」おさけであったとの事です。
我々が造ってみて出来上がったもろみを絞って酒にしたところ、(なんと、粘度が高くなかなか酒が垂れてきません。4日掛かってやっと絞りました。)艘口からトロトロと甘いだけの味醂のようなお酒が出てきました。あれ?、と思ってみましたら熟成期間がいる、との事。蔵で夏を越させて約半年寝かせましたら色も濃く、味も丸くトロリとしたお酒になりました。恐らく水が少なく、米のエキスが多いだけに変化も劇的なんだろうと思いますが、そのことは米の性質がもろに酒質に現れる事になります。古の地酒は今以上に個性的であったんでしょうね。
 又、砂糖の精製技術なども確立されていなかった時代、庶民は果実や植物から糖を摂取していました。
加えて、お米も貴重な時代、水を殆ど使わず米を液化させたという、贅沢で甘さたっぷりのこのお酒は庶民の手が届かない貴重品であったようです。かの豊臣秀吉公が大阪城の花見にこのようなスタイルのお酒を好んで飲まれたそうです。
 
 古のお酒を復活させましたが現代の嗜好に合うんでしょうか?
現代は食生活もグローバル化し色々な食材が有ります。
 色々な展示会や試食会でこのお酒を試したところやはり濃い味付けのもの、香ばしいものなどとの相性が良かったようです。焼き肉、濃い味の煮物などと合ったのはなるほどと思いましたが或るソムリエの方がその場にあったコーヒーゼリーを持ってきてくれ、試してみたところコーヒーの程良い苦みが増幅されてとてもおいしかったのには驚きました。デザートとして食後のお酒として飲むのも良いんではないでしょうか。味が濃いのでロックにしても薄さを感じにくくナイトキャップとしても良いと思います。



古代酒の熟成による変化
左より本年醸造、昨年醸造、以下1年ずつ古いお酒です。
写真では判別しにくいんですが長く置くと酒中のタンパク質が結晶化して澱が出てきます。